#44
#44

150年の歴史を持つ本物のお豆腐。
米原市「北新豆腐店」。

第44回
米原市「北新豆腐店」


たわわに実った大豆の実。
この近江の大地の恵みからおいしい豆腐を生み出すのは、
150年の歴史を持つ米原市の「北新豆腐店」です。
Good Sign 第44回は、本物の豆腐作りを通して、
地域を盛り立てようとする店の4代目をご紹介しました。

豆腐作りで広げる多くの縁

霊仙山
霊仙山

 JR米原駅のほど近く、霊仙山(りょうぜんざん)の西の麓の集落に北新豆腐店はあります。創業は、江戸時代末期。以来、この地で変わらず豆腐を作り続けてきました。現在の店主は、4代目の北村晋也さんです。

 「私の場合は、ちっちゃいころから跡を継ぐんやって育てられてきましたからね。26歳で店を継ぎ、もう35年ですか。基本の目標は、豆腐作りを通じてどれだけ多くのお客様とご縁を結べるかということ。自分が食べたいお豆腐を作り、『このおっちゃんが作るのは、こんなお豆腐なんだ』と知っていただき、ファンを増やしてご縁につなげたい。“顔のみえる豆腐屋”でありたいですね」

 その言葉通りお客さんとの縁は広がっており、周辺の彦根や長浜、大津、遠くは愛知や岐阜など県外から訪れる人も。人気の理由は、単に老舗であることや作り手がわかる安心感だけではありません。「よい原材料なくしてよいお豆腐はできない」と素材を厳選し、手間をかけて“本物”を作っているから。原材料の大豆は、地元農家が手塩にかけて育てた国産です。

 「その農家さんがどのように大豆を作られているのか、畑や圃場(ほじょう)に行かせていただき、大豆の花一つとっても種類によって違うこと、台風が来たらどれほど大変か、ここ数年教えていただき、農家さんのご苦労がよくわかりました」

 生産農家の努力と素材の品質を自らの目で確かめる。こうした姿が、お客さんの心をつかんでいます。

国産の大豆とにがりが生む本物

滋賀の大豆畑
滋賀の大豆畑

 滋賀県は、大豆の一大産地。農林水産省の調査によれば2019(令和元)年産の作付面積は全国6位で、栽培品種もさまざまです。北新豆腐店では、そのなかでも豆腐作りに好適な品種「オオツル」や「コトユタカ」を使い、季節により在来種「水くぐり」をブレンドするといった工夫も。

 「国産大豆は、炊いているときから香りから違うし、味も違う。みなさん『いい香りがするね』とおっしゃいます。それは、やはり素材の持つ基本的な力なんやな、と。自分も気持ちよく仕事ができます」

 もう一つ妥協せず貫くのが、大量生産品のような凝固剤を一切使わず、海水から作られる「にがり」だけで作ること。それも、伊豆大島のにがりに沖縄のものをブレンドし、その量も大豆や豆腐の種類によってグラム単位で調整するとか。

 「その違いは、堅さと味の両方に出てきますね。堅いと口溶けも変わりますし、口の中で広がる感触が違うと甘さや滑らかさの感じ方にも違いが出てきます」
 大豆を浸けるのに使う水は、明治時代から今も枯れることなく湧き出る井戸水で。じつは、米原は名水や美しい湧き水が豊かな地。こうした雄大な近江の自然の恵みが、北新豆腐店の味のベースとなっています。

時代が変わり、豆腐店も減少へ

昔ながらの豆腐作り
昔ながらの豆腐作り

 豆腐の主原料で、たんぱく質が豊富なことから“畑の肉”とも呼ばれる大豆。その歴史は古く、縄文時代中期の遺跡調査から当時すでに栽培されていたと考えられています。奈良時代には中国から醤油や味噌など大豆の加工法が伝えられ、同時代に豆腐も伝来したとか。

 大豆やその加工品が急速に普及したのは室町・鎌倉時代。仏教の教えである不殺生の浸透により、魚肉に代わるたんぱく源として大豆が人々の健康を支えます。さらに江戸時代に入ると、豆腐料理を紹介した書物『豆腐百珍』が人気を呼ぶなど、豆腐や大豆加工品は庶民の暮らしに定着。その後、幕末から明治へと時代が動くころ、北新豆腐店はのれんを掲げたといいます。

時は移り、近年は豆腐店が減少の一途だと北村さん。
 「店を継いだ昭和末期は米原もまだ人口が集積して活気があり、豆腐屋も近くに3軒あって、それで十分商いができた。地域で生産と消費が循環していました。ところが、総合スーパーの進出などで商店街や地元のスーパーが廃れ、地域で生産と消費ができなくなり、豆腐屋も減っています」

 全国的にも地域の人口減少が進むなか、北村さんがたどりついたスタイル。それが“豆腐屋の原点に帰る”ことでした。

元気な町には、豆腐店がある

豆腐店のある町並み
豆腐店のある町並み

 「私も若いころは、工場を大きくしたいとスーパーなどの大口顧客に商品を卸していました。でも、商売を拡大したからといって商品自体の個性が増すかといえばそうではない。もっと濃い商いのほうが、自分の味をお客さんにわかってもらえてよいのかな、と」

 そう考えた北村さんは、2012(平成24)年に店頭販売ができる工房を改築。
 “自分で作った豆腐を自分で売る”という原点に立ち戻ることに。

 「いま商品は、こだわりのあるお店さんや地元のホテルに卸すくらいで、小売りが中心です。外にあまり出していないので、お客様に来ていただく。そのためには自分が一生懸命、お客様に来ていただける商品を作らなあきませんから、いろいろな新商品に挑戦したい。お客様に聞くと、おいしかった、まずかったとお声をいただきます。厳しいけれど、おもしろい。時間と手間はかかっても、この人が作っているんやったら大丈夫やといってもらえたらうれしい」

 大地の恵みである栄養価の高い大豆と、ミネラル豊富な海の恵みであるにがり、そして米原の豊かな水。150年前と変わらない、こうした本物の豆腐を作り続けることで、北新豆腐店が目ざすもの。それは“元気”が循環する地域であり、その象徴としての豆腐店です。

 「昔ながらの地域の生産と消費があちこちで生まれると、再び地域が元気になる。元気になると、私どもも元気にできる。そんな元気な町には、豆腐屋があります」

国産大豆の旨味を堪能できる濃厚さ

豆腐の旨味を堪能できる濃厚さ
豆腐の旨味を堪能できる濃厚さ

 種類豊富な豆腐やオリジナル商品が並ぶ、北新豆腐店の工房横にある販売スペース。商品は輝きつやめき、一つひとつの存在感が伝わってきます。
 「『私はいます』と手を上げているような商品を作っています。お客様も見て『わぁ』と声を上げてくれますね」

 ひと口食べると驚かされるのが、国産大豆の旨味をぎゅっと濃縮したようなコク。それもそのはず、豆腐の母液となる豆乳の大豆固形分は約14%と、8%以上を豆乳と定めた日本農林規格(JAS規格)を大きく上回る濃度だから。採算ではなく、上質の大豆を惜しみなく使い、味のよさを追求している証です。

 こうした北新の豆腐ファンは、いまオンラインショップを通じて全国に拡大中。のぞくと、油揚げや湯葉、「とうふプリン」といった豆腐デザートなど、あれもこれもと目移りするほどの多彩さ。ぜひ一度手に取り、手間ひまを惜しまない本物を味わってほしいところです。

 あわせて公式サイトも見ると、「地域の元気のために、もっと面白いことができるかなと思う」との言葉通り、「出張・豆腐教室」など工房を飛び出して活動する北村さんの情熱にふれられます。

 大量生産、大量消費の時代に存在感を放つ、昔ながらの味。本物を求める人と地域に目を向けて、職人が今日も一丁一丁を丁寧に作っています。

北新豆腐店

公式サイト「きたしんのおとうふ」
https://kitashin102.com/tofu/

オンラインショップ「きたしんのおとうふ おとりよせ」
https://kitashin102.com/ec/