#04
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日本の心を未来につなぐ
近代日本建築の父・ヴォーリズ


地元の主婦らが支える地域の宝

光で表現した十字架
光で表現した十字架

 安土町にある「旧伊庭( いば) 家住宅」は、大正2(1913)年築。2019年に106年目を迎えたヴォーリズ初期の貴重な建築物で、市指定文化財です。

 この住宅は、住友財閥2代総理事を務めた伊庭貞剛の4男、伊庭慎吉の邸宅でした。化粧梁が目を引く造りは、よく英国の住宅に見られるハーフティンバーという技法。入母屋造りの玄関など、日本らしい様式も随所に見られます。

 昭和後期には解体される危機にも見舞われましたが、6年ほど前に地元の主婦らが「安土町の歴史的文化財を地元の手で守り、活用しよう」とボランティア団体「オレガノ」を結成。現在、管理・運営を手がけています。

 オレガノの副代表、城念久子さんは、ヴォーリズを「日本人よりも、日本人らしい人だった」と語ります。「隠し十字架ともいわれる、趣ある装飾窓を通して光と風が感じられます。ここには心地よく、幸せな空間がたくさんあるような気がします」

町のシンボルを活性化に活用

豊郷小学校の兎と亀
豊郷小学校の兎と亀

 市内にあるヴォーリズ建築のなかでも、彼の代表作と称されるのが、豊郷町にある豊郷小学校旧校舎群です。完成は、昭和12(1937)年。当時“東洋一の小学校”“白亜の教育殿堂”と謳われ、平成25(2013)年には国の登録有形文化財に指定されました。人気テレビアニメのモデルになったことから “アニメの聖地”と注目を浴び、現在は国内外から多くのファンが訪れています。

 校舎の階段の手すりに配されているのは、行進するウサギとカメの像。これはイソップ童話に基づいたものだとか。
「角を丸めた装飾も施されていて、ヴォーリズさんの安全への心配りと、子どもに対する温かなまなざしを感じます」とは、豊郷町産業振興課の大川尚輝さん。町ではこの旧校舎群を複合施設として、また、テレビや映画の撮影地としてさまざまに活用しています。

「世代を問わず、どこか懐かしく思い、ほっとできる不思議な空間です。昭和初期の様子もわかる貴重な建物であり、町のシンボルとしても大切な存在です。町の活性化にもっと役立てたいと、最近ではライトアップとイルミネーションも実施しています。もともと洋のなかに和が感じられる、ほかの学校にはない造りなので、灯りに彩られて幻想的な雰囲気に。大変、好評を博しています」

この地を愛したヴォーリズと現代の住民の愛がシンクロ。

ライトアップされた豊郷小学校
ライトアップされた豊郷小学校

 紹介した通り近江八幡市では、住民を中心にヴォーリズ建築をはじめ伝統ある町並みを守り伝える活動に力が注がれています。とはいえ、ここに至るまでの道のりは容易ではなかったといいます。

 たとえば、旧八幡郵便局。一粒の会では、再生に向けて当初、4トントラックでじつに30台分を超える廃棄物を運び出し、清掃を行ったほか、多額な修復費用など、難題を一つずつ乗り越えて、復活させています。

 旧伊庭家住宅の運営を行うオレガノは、維持費を行政の補助ではなく、来館者の協力金などでまかなっているそう。入館は無料で、邸宅内の案内はメンバーのボランティアです。「建物は、100年経つと次の世界につなげられる気がします」とオレガノの城念さんは語ります。

 豊郷小学校旧校舎群の活用に携わる豊郷町産業振興課の大川さんもまた、この貴重な文化財を引き継いでいく使命を感じています。
「この校舎は、優しさや思いやりに満ちており、教育を大切にする、引いては子どもたちを大切にするという精神を感じます。この先ずっと守っていくことで、子どもたちを大切にすること、子どもへの優しさを伝え続けていきたいですね」

 近江八幡では、この地を愛したヴォーリズの作品が、同じくこの地を愛する人々の熱意で未来に伝えられています。同市のように、美しい町並みをいかにして後世に伝えていくか。これからの町づくりの大きなテーマのひとつではないでしょうか。

近江八幡市、ヴォーリズ建築へのアクセス

 近江八幡めぐりは、京都駅からJR琵琶湖線で約30分のJR近江八幡駅が便利。旧八幡郵便局へは、近江鉄道バス長命寺・国民休暇村行き「大杉町」バス停下車。

 また、旧伊庭家住宅へはJR安土駅から徒歩約6分、豊郷小学校旧校舎群へは、JR米原駅か彦根駅または、JR近江八幡駅で近江鉄道に乗り換えて豊郷駅下車、徒歩10分。