#42
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自然と暮らしと日本の原風景。
未来に残したい道の駅「奥永源寺 渓流の里」

第42回
未来に残したい道の駅「奥永源寺 渓流の里」


春は新緑が映え、秋は紅葉に染まる山々。降り注いだ雨が清らかな流れとなって、淡海に注ぎます。山あいには幾つもの小さな集落があり、いにしえの文化を今に伝えています。いつか来たような、郷愁を誘うふるさと。そこには、美しい自然や人々の暮らしと調和した、新しい魅力が広がっていました。

豊かな自然が息づく東近江市

鈴鹿山脈
鈴鹿山脈

 
 西に琵琶湖を望み、市域の中央を琵琶湖の源流の一つである愛知川が、南西部を県内有数の大河である日野川が流れます。二つの川の流域には平地や丘陵地が広がり、緑豊かな田園地帯を形づくっています。滋賀県の南東部に位置し、三重県と接する東近江市です。
 
 滋賀と三重の県境に連なる鈴鹿山脈を中心とした鈴鹿国定公園は、その約6割が滋賀県であり、そのおよそ半分を東近江市が占めています。御池岳の頂付近には「21世紀に残したい日本の自然100選」にも指定されているオオイタヤメイゲツの群生林、千草街道の杉峠辺りにはミズナラやカエデ類、クマシデ、イヌシデ、スギなどの巨木も見られます。そして、天然記念物のイヌワシやカモシカをはじめとする野生動物、貴重な昆虫類、両生類、爬虫類と、多種多様な動植物が公園内に生息しています。そんな大自然の中ほどにあるのが奥永源寺です。

木地師と政所茶のふるさと奥永源寺

匠の技が生み出す椀や皿
匠の技が生み出す椀や皿

 初めて訪れたのに、なぜか懐かしい。奥永源寺は、そんな日本の原風景が色濃く残る山里です。

 この地域には七つの集落があり、その中の「君ヶ畑・蛭谷」は木地師のふるさととして知られています。木地師(きじし)とは、ろくろを使って木製の椀や皿や盆などを作る職人のことで、ろくろ師とも呼ばれます。このろくろの技術は、今から千年以上前の平安時代前期、近江国小椋谷(滋賀県東近江市)に隠棲していた皇族の惟喬親王(これたかしんのう)が法華経の巻物の軸が回転する原理から思いついたとされ、惟喬親王が森林に携わる人たちに木工を勧めたことで、朝廷や幕府の許可を得た職人集団ができ、やがて各地に広がったのだそうです。木の温もり、無駄のない美しさ、匠の技が生み出す椀や皿は、一度使うと手放せなくなりそうです。

幻の銘茶_政所茶
幻の銘茶_政所茶

 同じく集落の一つである「政所」では茶が栽培されています。滋賀県のお茶といえば朝宮茶や土山茶が有名ですが、「政所茶(まんどころちゃ)」は幻と呼ばれる銘茶。その起源は室町時代、永源寺5世管長の越渓秀格禅師(えっけいしゅうかくぜんじ)が、政所の地は茶の栽培に適しているとして、茶を伝えて栽培を奨励したのが始まりとされています。「宇治は茶所、茶は政所」とうたわれ、かつては幕府や朝廷にも献上されていたほどで、幼少の石田三成が豊臣秀吉に出したとされる三杯の茶「三献茶」は、この政所茶だったといわれています。現在は数十軒の農家で生産される希少なお茶となっています。

自然や暮らしと調和した道の駅「奥永源寺 渓流の里」

道の駅「奥永源寺渓流の里」
道の駅「奥永源寺渓流の里」

 鈴鹿山脈の御池岳に源を発し、湖東平野を流れて琵琶湖に注ぐ愛知川。深い緑に包まれたその上流にはイワナ、ヤマメ、アマゴ、下流にはカワムツ、シマドジョウ、カワヨシノボリなどが泳いでいます。その美しい川のほど近くにあるのが、道の駅「奥永源寺渓流の里」です。初めて訪れた人は学校と見間違えるでしょう。そう、ここは2003(平成15)年に廃校となった政所中学校の校舎と体育館をそのまま活用して誕生した道の駅なのです。

 駅の中には、幻の銘茶「政所茶」や名産「永源寺こんにゃく」をはじめとする特産品の数々、木地師のふるさとらしくさまざまな木地製品が並び、軽食コーナーでは近江牛と永源寺米を使った「近江牛丼」や「永源寺ダムカレー」などの名物グルメを味わうことができます。また、併設されている「緑と水の教室」には多彩な水槽を設置した「森の中の小さな水族館」があり、愛知川や琵琶湖の魚に出会うことができます。

 こうした来訪者向けの施設に加えて、この道の駅には市役所の出張所や診療所なども置かれており、地域の人々の生活を支えるコミュニティー拠点にもなっています。このような多機能型の道の駅は全国でも珍しいといいます。

未来に残したい美しい水と緑

日本の原風景
日本の原風景

 道の駅「奥永源寺渓流の里」の駅長を務める小門信也さんは、この地域で生まれ育ちました。子どもの頃はみんなで野山を駆け回り、川で魚を釣ったり泳いだりして遊んだ思い出があります。まさに童謡の世界のような、古き良き日本のふるさと。しかし、時代とともに過疎化が進み、村の存続が危ぶまれたことから、地域の活性化を目指して2015(平成27)年10月、この道の駅がつくられました。

 「昔は道の駅どころか、道もない秘境でした」と小門さんは笑います。今では周囲に数多くのキャンプ場なども点在する、自然と調和した美しいレジャースポットです。川遊びや渓流釣り、ハイキングに登山、森林浴、紅葉狩りと、四季折々の行楽が楽しめる奥永源寺には今日も県内外から多くの人が訪れます。そして、観光客だけでなく、奥永源寺の豊かな自然に魅せられ、素朴な暮らしに憧れて、都会からこの地へ移住してくる若者たちもいるそうです。

 「みんなに感動を与えてくれる奥永源寺のきれいな水と緑を、そのまま後世に伝えたいのです。そのために地域が存続して、私たちの手でこのふるさとを守り、そして次の世代へ手渡したいと思っています」という小門駅長。未来に向かって、出発進行です。

道の駅 奥永源寺 渓流の里

滋賀県東近江市蓼畑町510番地 

電話:0748-29-0428

ホームページ:http://okueigenji-keiryunosato.com