#33
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美しき日本の暮らしを、和菓子にうつす

第33回
「叶 匠壽庵 寿長生の郷」


お菓子の素材となる果樹農園から、お客様のおもてなしまで。ひとところに「農工ひとつの菓子作り」をめざす創作和菓子店 叶 匠寿庵。山を開墾し、大津市大石龍門の丘陵地に、広さ6万3千坪の里山を築きました。山林はそのままに自然の谷川を利用し、散歩道には季節の野花が姿をのぞかせます。そこに感じる懐かしさは、かつてわたしたちの暮らしが自然と共にあったことを思い出させてくれます。

素材が生きる郷

寿長生の郷の梅

 「寿長生(すない)の郷」と名付けられたこの地には、和菓子に使用される梅や柚の農園、そして樹々や草花が植えられています。みずから育てることによって素材を知り、もっとも素材の活きる時期と製法を突きつめられた創作和菓子は、自然から生まれた和菓子ともいえるでしょう。

 6月には、千本もの梅林に実が成りました。果樹が実をつけるには1年や2年ではなしえないこと。これほど大粒で香り豊かな梅が数多く育つのは、日々の丁寧な手入れと愛情の賜物なのです。

 「梅の実には細かい毛が生えていて、桃のようにいい香りがします。生の実を触ることはなかなかないと思うので、ぜひ五感を使って楽しんでいただけたら。」とは、秘書広報室の高橋里佳さん。こだわりの梅狩りを体験できるなど、郷では楽しみも格別です。

お菓子に表現されるのは、自然への慈しみの心

茜色のお菓子

 梅は城州白梅(じょうしゅうはくばい)。京都府の青谷という地のみでつくられるという希少種であり、独特の甘みがお菓子にぴったりだと迎え入れられた品種です。旬の夏はかき氷で。栃木県日光のこだわりの天然氷を使用し、囲炉裏茶房でのみ、いただくことができます。

叶 匠壽庵のお菓子

 またこのたび、50年間にわたり親しまれてきた水菓子が城州白梅によって生まれ変わりました。額田王(ぬかたのおおきみ)の恋歌から生まれた「標野(しめの)」は、この歌の舞台といわれる滋賀県蒲生郡の蒲生の丘をかたどったもの。透きとおる茜色は梅によって表現され、詠まれた恋心を想像させるような豊かな甘酸っぱさを味わうことができます。

 茜さす 紫野ゆき標野ゆき
 野守は見ずや 君が袖振る

 紫草の茂る風の香りを思いめぐらせると、自然豊かな里山の風景が思い浮かぶようです。

生きる力を再生する里山

寿長生の郷

 農園から菓子工場、人々にふるまう建屋がそろう寿長生の郷は、人と自然が共生する百年愛される里山づくりを目指して造られたものです。かつての日本において、農業を中心に営まれた里山での暮らしは、自然環境資源を生活に活かし、廃棄物を再利用するといった、循環を生むまさに持続可能な社会でした。自然の摂理と人の知恵。そのコラボレーションは互いを育て合う、この地球での動植物の生き方ではないでしょうか。産業が発達し、都市システムが発展する中で忘れられてしまった里山の循環社会。自然の偉大なるエネルギーは使い捨てではないのです。ここで作られたお菓子には、自然の恩恵をいただく感謝が込められています。

美しき日本を和菓子にのせて

次世代につなぐ日本の美意識

 寿長生とは、井戸のつるべを引き上げる縄を意味します。訪れる人々に活力を汲み上げていただきたい想いから名づけられています。創業者であり、寿長生の郷を開いた芝田清次さんが伝えたかった、自然が与えてくれる力と豊かさ。

 「歴史や文化を映す創作菓子で日本の美意識を伝えたい」そんな想いで、故郷・近江の風土や四季を存分に表現された和菓子たち。郷の移り変わる四季を、見て、聴いて、触れて、味わい、香る、そんな喜びが、日本人本来の心の豊かさをもう一度もたらしてくれているようです。

叶匠壽庵 寿長生の郷
叶 匠壽庵 寿長生の郷

〒520-2266
滋賀県大津市大石龍門4丁目2-1-3

TEL:077-546-3131

営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜日
ホームページ:http://www.sunainosato.com/