#20
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琵琶湖疏水に賭けた
京都の振興

第20回
「琵琶湖疏水」


生物のいのちになくてはならない水。不自由なく安心して利用できるのは、私たちは普段意識することはありませんが、水と関わり続けてきた人たちの叡智と志の賜物です。明治期に行われた琵琶湖疏水の建設は、京都に活気を取り戻そうと水に賭けた男たちの情熱と知恵による大規模インフラ事業でした。その後、関西の都市の発展に大きく貢献し、私たちに恩恵を授け続けてくれています。

激動の京都、復興への想い

復興への想い

 水は古くから農業に大きく貢献し、町を形成してきました。土地を切り開き、水路を設け通水を促す疏水(そすい)によって、農業や生活用水だけでなく、舟運、発電など産業にも大きく役割を広げることになります。国内の疏水の総延長は約40万平方キロメートル、地球を10周するとてつもない長さで日本中に張り巡らされているのです。

 現在、水道用水として滋賀県をはじめ京都府、大阪府、兵庫県の約1,400万人が利用している琵琶湖の水資源。なかでも京都の活性化に大きく寄与した琵琶湖疏水は、当時、例を見ないほどの大工事でした。

 時は激動の幕末維新を迎えた京都。遷都によって、平安時代から1000年以上続いた都としての機能は東京に移り、人口は35万人から20万人に減少、かつての活力を失っていきました。賑わいを取り戻そうと官民が一体となって復興に取り組む中、第3代京都府知事となった北垣国道は、琵琶湖の水源を京都一円へ張り巡らせることによる繁栄をにらみ、生活用水、舟運、交通、産業の動力確保を目的とした大規模疏水建設を計画したのです。莫大な予算を投入し、市民にも税負担の協力をあおいだほど政治生命を賭けた壮大なプロジェクトでした。

困難に打ち勝つ志と知恵

田邉朔郎
田邉朔郎

 西洋様式が日本に流入した文明開化にあって、当時、大型工事は外国人技師による設計監督に委ねていた中、琵琶湖疏水は初めての日本人による大規模土木事業となりました。自らで京都の町を復興する!そのような気概を感じます。なかでも北垣が工事主任に迎え入れたのは当時23歳の田邉朔郎です。

 工部大学校(現在の東京大学工学部)にて、琵琶湖疏水工事に関する研究論文を仕上げていたことがきっかけで、北垣の大抜擢を受けることになりました。強力な同志となった北垣や田邉らは、周囲からさまざまな批判や反対を受けながらも、京都の未来を創造する志をひとつに、成し遂げていきます。

 明治18年に着工となった疏水工事は、琵琶湖取水地点から、伏見区場詰町の一級河川濠川となる地点まで、全長約20kmの「第1疏水」、東山区蹴上付近から分岐し左京区北白川に至る全長3.3kmの「疏水分線」、のちに「第2疏水」と京都市内に水路を展開していくことになります。経験のない大工事であったことから、技術者を養成しながらの昼夜に及ぶ作業や、手持ちの簡素な道具を駆使せねばならないなど、多くの困難を伴ったといいます。大きな関門であったのが、大津から山科をつなぐ2.5kmの第一トンネルです。当時としては国内最長のトンネル掘削に一同は頭を悩ませました。

 田邉が採用したのは、日本で初めての竪坑(シャフト)によるトンネル掘削でした。山の両端からトンネルを掘るだけでなく、山の上から垂直に竪杭を掘り、そこから山の両側に向けて堀り進めていくという前代未聞の工法でした。この第一トンネルが開通した時には、琵琶湖疏水の成功を確信したというほどの大きなポイントだったようです。また、第3トンネルを過ぎた東山区蹴上の先には、高低差36メートルの傾斜があります。船を台車に載せ、ケーブルで引くインクライン(傾斜鉄道)を使用しました。このようにして熱意と知恵、チャレンジに富んだ琵琶湖疏水は5年の歳月をかけ、明治23年に完成しました。

繁栄支えた偉業を未来へ

疏水を行き交う観光船
疏水を行き交う観光船

 琵琶湖疏水によって、貨物の運搬や精米用の水車小屋、南禅寺界隈には疏水の水を利用した庭園が造られるなど、京都の町に賑わいが戻りました。また疏水工事と並んで、日本初の事業用水力発電所を稼働させたことにより、市内に電灯を灯らせ、日本初の電気鉄道を開業するなど、産業を大きく発展させる原動力となったのです。田邉はのちに、日本の近代土木に大きく貢献した重要人物として、国内外から評価されました。

 市民の暮らしを大きく変えた琵琶湖疏水は、現在、水道用水のほか発電、工業など広範囲に利用されているだけでなく、明治の偉業を感じることのできる観光地となっています。春には疏水の沿線に植えられた700本の桜が見事に咲き誇り、市民の喜びと彼らの功績を表しているようです。また蹴上インクライン、南禅寺水路閣は国の史跡に指定され、哲学の道に流れる水路にはゲンジボタルが宿り、その生息地とともに京都市の文化財として登録されています。近代化への貢献を誇る遺産として伝えていこうとの想いが感じられます。

 今日も四季折々の風景に趣を演出する水路は、京都の風情をより引き立たせます。疏水を行き交う観光船からは、いのちをつなぐ水とともに、私たちの心にまで豊かさを運んでくれるようです。

琵琶湖疏水記念館

https://biwakososui-museum.jp/

所在地
〒606-8437 京都市左京区南禅寺草川町17
休館日
毎週月曜日(月曜日が祝日・休日の場合は翌平日休館)、年末年始(12月29日~1月3日)
開館時間
午前9時~午後5時 ※入館時間は午後4時30分まで
入場料
無料
お問合せ
075-752-2530 (臨時休館についてはホームページをご確認ください)