#39
#39

火と人をつなぐ
心と暮らしを照らすともしび

第39回
幽玄のゆらぎを世界に「和ろうそく大與」


火が日常から失われつつあるいま、米ぬかが醸し出す幽玄のゆらぎを世界に発信しているのが、高島市今津町で百余年の「和ろうそく 大與」です。
ゆらめく、心、穏やかにする炎。 
Good Sign 第39回は、このともしびに託された大與の思いと、その取り組みをご紹介しました。

伝統のともしびを守り続けて

高島市今津町
高島市今津町

 琵琶湖の北西に位置する高島市今津町。ここに、1世紀超にわたって「和ろうそく」を造り続ける老舗があります。「近江手造り和ろうそく 大與(だいよ)」です。創業は1914(大正3)年で、今年106年。現在、三代目で会長の大西明弘さんと四代目で社長の大西巧(さとし)さんがともに伝統のともしびを守り続けています。

 大與の和ろうそくは、曹洞宗の大本山永平寺にも納められてきたほどの品質。芯の周りに素手で蝋(ろう)を塗り重ねては乾かす「手掛け」という、古くから伝わる製法で作られており、1984(昭和59)年には県の伝統的工芸品に指定されました。この技法には蝋や本体の温度、日々の気温などを感じ取り、調整しながら品質を保つ職人技が求められますが、その技を受け継ぐ職人はもはや全国に10人ほどだといいます。理由としてろうそく自体の需要の減少があると巧さん。

 「ろうそくといえばよく仏事で使われますが、お寺さんとのおつき合いも減りつつある。そもそもガスコンロが昨今IHへと変わり、火そのものを暮らしのなかで使うということが失われつつあります」
 
 影響は、原材料にも及んでいます。大與では、伝統的な和ろうそくに漆(うるし)科の櫨(はぜ)の実から搾取したこだわりの国産櫨蝋を使いますが、この櫨の実の採取量もめっきり減っているのです。

 「需要が減ると作り手が減り、価格は高騰する。そんな負の連鎖で、櫨の実も近ごろ入手しにくくなりました。櫨の栽培農家さんだけでなく、実を加工して櫨蝋を作る工程を担うメーカーさんも国内にたった2社しか残っていないのです」

 こうしたなか、大與が次代を見据えて選んだ新たな原材料があります。それは、とても身近な素材である米ぬかです。

次代に残るのは持続可能な素材

持続可能な素材
持続可能な素材

 大與が米ぬかから抽出した蝋を使い始めたのは昭和50年代。米ぬか蝋は櫨蝋より入手しやすく、特殊な技術や細かい管理がそれほどいらないというメリットがあります。商品開発を進め、2011(平成23)年にグッドデザイン賞と同中小企業庁長官賞を受賞したのが「お米のろうそく」です。

 そもそもろうそくといえば一般的なのが、石油由来のパラフィンを原料に大量生産されている洋ろうそく。これに比べて和ろうそくは炎が大きく消えにくく、油煙や匂いもあまり出ないといった特徴があります。「お米のろうそく」はこの和ろうそくの長所が際立ち、蝋が垂れる「蝋涙」や油煙がほぼ発生せず、人や環境に負荷をかけない点が評価されました。

 「地下から化石燃料を掘り起こすだけでも大きなエネルギーが必要です。いっぽう米や櫨は地上で育つもの。その蝋は枯渇することのない持続可能な100%植物性です。これからは、何を原料にしているかが問われる時代だと思います」。だから、和ろうそくは生き残る。そう確信して家業を継いだと巧さんは語ります。

和ろうそくで提案する豊かな暮らし

和ろうそくの新しい可能性
和ろうそくの新しい可能性

 これから100年続けるうえで何が必要なのか。創業100年の節目を迎えてそう考えた大與では、和ろうそくの新しい可能性の掘り起こしを始めました。仏事だけでなく食卓や入浴、ティータイム、寝室や瞑想のひととき…。生活雑貨としてのろうそくのある暮らしと、そこから生まれる多様な豊かさを提案し、宿泊施設などに売り込んだのです。なかなか手応えが得られないなか、ある出来事で流れが変わったと巧さん。

 「国内外でアロマキャンドルが人気ということで、造ってみましたが、どうしても香りがつかなかった。調べたら、米ぬか蝋の成分には香りがつかないとわかってがっかりしましたが、そこでひらめいたのが、香りのいらない場所にはうってつけやないか、ということ。たとえばレストラン。提供する料理やワインを最高の空間で楽しんでもらえるように演出する“香りのないろうそく”です。縁のあったレストランオーナーが新店を出すというので持ちかけたら『おもしろい』と。その店が予約の取れないほどの人気店になったことで、うちの認知度も高まり、引き合いが増えました。お皿とか器とか生活雑貨ですよ。同じように暮らしのなかで楽しんでもらいたい」
 

和ろうそくにしかない価値

伝統のともしびを守り続けて
伝統のともしびを守り続けて

 ろうそくで火を灯すこと。日常で火を扱うことが失われつつあるいま、大與はその意味と向き合い、創業100年を迎えた2014(平成26)年、ブランド「hitohito」を立ち上げました。「“火と人”をつなぐ」がコンセプトだと巧さん。

 「手元で扱える小さな火は、古来安心をもたらせてくれるものです。ただし、穏やかなものであり続けるには、人が関わり続けなければいけません。火と人がないと、ろうそくは成り立たないものなのです」気候変動や豪雨災害などの影響もあり、自然環境への意識が高まっています。電気に頼りきりの毎日を危惧しているのは、灯りのない生活を余儀なくされた被災経験のある方々だけではないはずです。

 「創業以来100年、ろうそく屋であり続けられた私たちにとってこれから大事なのは、時代のなかで当たり前のことをちゃんと見る目を持つこと。何が当たり前なのかをろうそくは教えてくれる気がします」

 純植物性である和ろうそくの価値は、環境問題に敏感な海外でも高く評価されています。もともと日常でキャンドルを灯す習慣がある外国人に商品を紹介すると「Wow! Wonderful! Beautiful! oh my God!」。こんなろうそくがあったのか、という反響が寄せられるとか。火と人とをつなぐ、ろうそくのともしび。その可能性は舞台を世界へと広げています。

私たちを導く穏やかなともしび

和ろうそくのともしび
和ろうそくのともしび

 大與の店舗では、多彩な和ろうそくやインテリアにもなる燭台をそろえていますが、外出や移動の自粛ムードが広がるいま、オンラインショップをのぞいてみてはいかがでしょう。

 櫨ろうそくや米ぬかろうそく、仏花の代わりに造られ始めたという絵ろうそくなど、いずれも上品で芸術品のような趣です。なかでも「hitohito 色ろうそく」は、「花鳥風月シリーズ」「春夏秋冬シリーズ」など30色以上がそろい、フォルムもモダンで愛らしく、見ているだけで温かな気持ちになります。和ろうそくの美しさを楽しむには、「ろうそくのサイズと空間とのバランスが大切」と巧さん。また、米ぬかろうそくは、種類ごとに炎の大きさや色合いが変わるとも。いろいろ試して、部屋や好みにぴったりの1本を探す過程も楽しめそうです。

 ろうそくは、単に非日常の雰囲気を与えてくれるだけではありません。炎の作用として知られているのが、癒しの力。川のせせらぎや風の音といった自然界にある波長は、同じ「ゆらぎ」を持っており、これが人を心地よくさせるといわれています。部屋に灯せば、その小さなゆらめきに、大きな自然の恩恵と安らぎを感じられるかもしれません。

 いま一度よい暮らし方を模索する私たちを、やさしく導くともしび。それが大與の和ろうそくです。

和ろうそく「大與」
和ろうそく「大與」
近江手造り和ろうそく 大與

ONLINE SHOP:http://warousokudaiyo.shop-pro.jp/