#36
#36

木彫りの里の職人の暮らし
米原市上丹生ウッドペッカーズ

第36回
木彫りの里「上丹生ウッドペッカーズ」


木を削る音、金槌を叩く音がそこかしこから響く木彫りの里。
伝統を受け継ぐ多くの職人が暮らしています。ここで彫刻のファンと後継者作りのために活動しているのが上丹生ウッドペッカーズ。Good Sign第36回は、その取り組みと思いをご紹介しました。

江戸時代から続く木彫りの技

米原市上丹生

 米原市上丹生(かみにゅう)。霊仙山(りょうぜんざん)の麓、丹生川と宗谷川(そうやがわ)の合流地点に集落が広がっています。山間にあり、盛んになったのが山林の木を使った木彫り産業。遡ること300年、ここに仏壇づくりに携わる職人たちの村が形成されました。“木彫りの里”上丹生です。

 「上丹生や彦根など、滋賀県は古くから仏壇づくりで知られています。その工程は、木地師・宮殿師・彫刻師・漆塗師・金箔押師・蒔絵師・錺(かざり)金具師の工部七職と呼ばれる職人の分業によるもので、上丹生にはすべての職人が結集しています。そんな地域は、ほかにはないと思うんです」と語るのは、井尻彫刻所の3代目、井尻一茂さん。

 上丹生の技は、仏壇づくりだけでなく山車や欄間、茶托や盆といったものにも生かされ、和の文化を美しく彩ってきました。こうした木彫り産業を支えてきた職人らに共通するのは、地元への深い愛着と誇り。日々の暮らしを語るひと言ひと言にそれが感じられます。

 「毎日部材屋さんの車が行き来したり、木彫りの里らしい賑やかさがあったりね」(中村彫金所 中村幸雄さん)
 「ふたつの川の清流や山の緑。豊かな自然とともに生きている感じ」(森彫刻所 森 靖一郎さん)
 「思い出といえば、仕事場から聞こえてくる金槌の音ですよね。子どもの頃、職人の親がたまに夜なべをしていたときは、その音を聞きながら爆睡していました(笑)」(吉田彫刻所 吉田真之さん)

匠の技が生かされない時代

大きな仏壇

 21世紀を迎えた現代、人々の意識や生活スタイルの変化に伴い、先祖を弔う大きく立派な仏壇を求める人は減りつつあります。かつて200人を超える職人たちが暮らした上丹生もそうした影響を受け、伝統を受け継ぐ職人もわずかになりました。仏壇を美しく飾る装飾金具を手がける彫金の職人は「もう2人だけ」とは中村さん。

 「お向かいさんもやってはったけど、もうやめるいうて。私とあとはお一人、80代の方が続けてはりますけどね」
井尻さんによれば、かつて40人いた彫刻師も半減。
 「なかでも私のように家業を継いでいる彫刻師は、たった4人。すごい腕を持つ方はたくさんおられる。でも、その腕を生かしたものが売れるかというと、売れない時代なんです」

匠の技

 代々継承されてきた優れた技術が生かされない…。強い危機感を抱いた上丹生の若手後継者たちがこうした現状に新風を吹き込もうと、2018年立ち上がります。有志6人による「上丹生ウッドペッカーズ」の結成です。

 誕生の背景にあったのが、ここ10年近く盛り上がりを見せてきた訪日外国人観光客の消費、いわゆるインバウンド需要。上丹生ウッドペッカーズの会長に就いた井尻さんはこう説明します。

 「モノが売れない時代、外国人観光客をはじめ、国内外に向けて彫刻の体験というコト消費を広めて、上丹生の伝統と技術を発信しよう、と。ファン作りです。彫刻と上丹生のファンを増やしたいと思ったんです」

 その年、米原市との協働事業というスタイルで「上丹生工芸体験プロジェクト」が動き出しました。

無心に削る心静かなひとときを

無心に削るひととき

 結成の翌年、上丹生工芸体験プロジェクトでは、県と姉妹都市提携を結ぶアメリカ・ミシガン州立大学からの留学生に協力を得て、木彫(もくちょう)のプレ体験を実施しました。会場では、「It’s really fun!(すごく楽しい!)」「Awesome finished!(最高の出来だね!)」という参加者の声が続々。
 
 「うちら売り込むより、作るほうが主体でやってきたんで。宣伝は下手くそなんです」と吉田さんは語りますが、こうした試みで体験参加者の笑顔にふれ、指導するメンバーも大きな手応えを感じたそうです。
 
 そして、本格的に始動させたのが、木彫のハンガーやコースターづくりなどを体験できる「職人に学ぶ工芸体験 Tonton」。「Tonton」とは、槌で木や金を叩く音。「木に触れることで、もの作りの楽しさを知ってほしい」との思いが、愛らしい名に込められています。
 
 もの作りの醍醐味は、完成したときの大きな達成感。世界にひとつだけのハンガーやスプーンは、愛着もひとしおです。しかしそれだけではなく、無心で手を動かすと集中力が高まり、一種の瞑想状態に近い感覚が味わえるのだとか。瞑想は、雑念を減らし、引いてはストレスの軽減につながるともいいます。折しも、コロナ禍で毎日の過ごし方に変化が起きているいま、もの作りに没頭する時間は、心の落ち着きをもたらせてくれそうです。

伝統産業の課題を乗り越える

職人に学ぶ工芸体験

 「職人に学ぶ工芸体験 Tonton」の体験メニューは現在4つ。木彫なら所要時間は2時間で、体験料はそれぞれ異なります。小学生は父兄同伴なら可能。さらに3歳以上でもできる刃物を使わない木製積み木のデコレーションといった体験も設けているため、家族での参加も多いそうです。

 メンバーは、この取り組みへの意気込みをこう語ります。
 「木を削る楽しさ。まずそれを味わっていただきたいですね」(森さん)
 「遊びだから、上手い下手とか意識せず、ただ楽しんでもらえたら。その楽しさが伝わるよう、私たちもがんばります」(吉田さん)

 上丹生だけでなく、歴史や高度な技術を誇りながら、後継者不足やニーズの変化といった課題を抱える地域産業、伝統産業は少なくありません。上丹生ウッドペッカーズが目ざすのは、こうした課題を乗り越えること。新たな後継者作り、次代への技術の継承が究極の目標です。

 「木彫りの魅力が国内外に広がることで、上丹生に住みたいという方が増え、将来の後継者に出会えるなら最高です。もう、ワクワクが止まらないですよね」(井尻さん)
 「結局は生まれたところがいちばんやろね」(中村さん)

 大切なふるさとの未来を拓く、木彫りの仲間作り。ウッドペッカーズの夢は広がります。

職人に学ぶ工芸体験Tonton 公式サイト

ホームページ: https://tonton-craft.com/