#03
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最古の寿しを未来につなぐ

第3回
「鮒寿し・魚治」


“我が国最古の寿司”と言われる「鮒寿し」。タイの北部から中国雲南省にかけての地域に起源をもつ「熟れ寿し(なれずし)」の一種で、その歴史は古く、今から約千四、五百年前、大陸から日本に伝わったといわれます。Good Sign第3回は、最古の寿しを発酵美食として未来へとつなげる、滋賀県・海津の「魚治」を訪れました。
魚治の鮒寿し
魚治の鮒寿し

魚と米と塩。このたった3つで起こる、奇跡。

魚と米と塩で起こる奇跡
魚と米と塩で起こる奇跡

 鮒寿しの原料となるのは、ニゴロブナ、米、塩のみ。これを乳酸菌の力で2年間、熟成されると、日本最古の熟れ寿しとなります。お腹にたっぷり卵の入った産卵期のニゴロブナは、外敵のいない田んぼを目指して遡上してくるため、昔の農民はその期間だけ、「にわか漁師」になり、大量の鮒が捕れました。冷蔵庫がなかった時代、大量に捕れた鮒を一匹も無駄にせず、保存するための方法として、この地域には熟れ寿しの技術が発達しました。

200年前から伝わる「菌」を守り続けて。

 びわ湖の北西にある、海津。この小さなまちで、天明4年(1784年)、魚屋として創業した魚治は、およそ200年の歴史を誇る老舗。自然豊かな風土に守られ、受け継がれてきた「鮒寿し」を、心を込めて作り続けています。

 鮒寿しの仕込みは春。琵琶湖の中で最も深いところに棲むニゴロブナを使い、塩で魚の水分をしっかり抜いて、たっぷりの米と共に樽でつけ込みます。深いところに棲むニゴロブナは、身が締まって美味しいのだそう。仕込み蔵のなかには、「蔵持ちの菌」として乳酸菌が住み着いています。この菌によって鮒寿しの味の決め手。大切に育て、守ってきた「蔵持ちの菌」で、2年をかけて、じっくり熟成させるのが魚治の鮒寿しです。

 現在営んでいるのは七代目。「蔵の管理は、水を替えたり、空気の入れ換えをして温度管理をしたりという、“お守り”をすること、乳酸菌の仕事の手伝いをしているだけ」と七代目。環境を整え、愛情をかけながら、よけいな手をかけずに、成長するまでじっと見守る。まるで我が子のようですね。

 約2年後、樽から取り出される鮒寿しは、ハレの日の食卓にあがるおめでたい食材として滋賀では特別の料理とされてきました。また、昔は、薬としても重用され、体調不良のときに鮒寿し茶漬けを食べると元気になったそう。鮒寿しに熱いお湯をかけて飲むとそれが持つ乳酸菌の効果により発汗を促し、楽になるそうです、鮒寿し自身のビタミン、天然の抗生物質もそれに一役かっていて、お腹の調子の悪い時などは、鮒寿しの乳酸菌が調子を整える手助けをしてくれるのだそう。

遠藤周作が愛した「魚治」の鮒寿し

伝統が発酵美食に昇華
伝統が発酵美食に昇華

 発酵食品が身体によいことは昔から知られていますが、その理由は大きく3つあると言われています。ひとつは、菌が発酵することによって栄養価が高まること。2つ目は、菌によって分解された食物は消化・吸収がされやすくなっていること。3つ目は、発酵食品をつくる菌は善玉菌を増やす働きがあり、便秘の解消や、免疫力を高めたりする効果が期待できること。

 鮒寿しのおすすめの食べ方は、鮒寿しを口に含み、吟醸酒を一口。お互いのよさが引き立ち、芳醇で深い味わいが広がります。外国人の方がこの味に馴染んでくれるそうで、「チーズとアンチョビを合わせたような味だ」と表現する人が多いとか。

 魚治の鮒寿しの味を物語るこんなエピソードがあります。かつて、作家の遠藤周作さんがおいしい鮒寿しを探して放浪していたそうです。しかしなかなか「これだ!」という鮒寿しに出合えず、「こんなに長く続いている食べ物がこんな味であるはずがない」という信念のもと、辿り着いたのが魚治。そのご縁あって、魚治の料亭は、遠藤周作さんの愛称である「狐狸庵先生」から、「湖里庵」と名付けていただいたそうです。現在は台風の影響で休業していた湖里庵も、来年の再開を目指して準備中とのことです。

伝統を守りながら、発酵美食を未来につなぐ

伝統を未来につなぐ七代目
伝統を未来につなぐ七代目

 嵐山吉兆で修行をつんだ料理人でもある七代目は、鮒寿しの伝統を守りながらも、鮒寿しの食べ方にこだわらず、斬新な創作料理を提供する場を設けています。鮒寿しのあぶり、鮒寿しパスタ、鮒寿しサンド…といった和と洋のコラボを取り入れた料理は大評判に。また、滋賀県のお土産として「鮒寿しパイ」などが人気を呼んでいたり、近年ではポテトチップスの味として話題になっていたりと、その知名度は少しづつ広がっているようです。

 七代目が代を次ぐときにもらった言葉が「歯車になれ」。変わらないままでは、次に正しく伝わらない。常に回り続けるのが歯車。先代が伝えたかったのは、“けっして立ち止まらず、常に挑戦し続けること”でした。「父祖が言った歯車の意味がようやくわかってきた」と笑う七代目。
魚治と蔵持ちの菌が生みだす発酵美食の挑戦はこれからも続きます。

魚治の鮒寿し懐石
魚治の鮒寿し懐石
魚治

http://uoji.co.jp/

滋賀県高島市マキノ町海津2304
定休日/火曜日
電話/0740-28-101