#21
#21

心も体も満ちる、
おいしい滋賀らしさを

第21回
「五感を超えた料理 湖香六根」


近江商人発祥の地と言われる滋賀県東近江市五個荘。昔ながらの町並みを残すこの地域に、180年以上前に建てられた古民家を改装した日本料理店があります。深い趣をそのままに人々をもてなす「湖香六根(うかろっこん)」は、ゆったりと流れる時間の中で、一般的な食材でなく、市場に出回らない滋賀の食材を味わえるというスタイル。この地ならではの食の楽しみを求めて、県外からも多く訪れるというお店には、滋賀で生まれ育った料理長の杉本宏樹さんの想いがあふれていました。

手間暇をかけた、滋賀らしさを味わう

地元の食材の魅力

 店名の「湖香」には、滋賀の野菜の香りを表現、読み方を伏見稲荷神社に奉られている穀物の神様「ウカノミタマノカミ」にちなんでいます。「六根」とは、仏教用語である「六根清浄」に由来し、五感を超えた第六感をつかさどる根幹の意識を表しています。どこでも食べられるような料理でなく、滋賀らしさにこだわりたい…その土地にしかない料理を十二分に味わえる尊さ、喜びが伝わってくるようです。

 実は滋賀に生まれ育ちながら、その魅力を実感したのは大人になってからだという杉本さん。県外から来られた奥様やお客様から、滋賀のすばらしさを改めて知らされ、次第に誇りを感じるようになったのだそうです。

 扱う食材には、琵琶湖の湖魚、うなぎやすっぽん、鹿や熊、そして地元の信頼ある漁師や猟師、農家などから一般の料理人が手掛けない食材を仕入れています。例えばカマツカというコイ科の淡水魚は、食べられる部分は5分の1程度のうえに作業時間がかかるため、料理人が調理したがらず、市場に出回りません。また、琵琶湖で捕れる鯉は、適切な処理をされなければ独特の臭みが残ってしまうために、選ばれないことが多いそう。こうした食材に手をかけ、おいしさを引き出すことに杉本さんは目を付けました。「値段がつかない魚は価値がないわけでない。せっかく漁に出て水揚げされたのだから、買わせてもらうことによって漁船のガソリン代になったら嬉しい」そこには料理人としてだけでなく、地元の供給者への敬意も込めた想いが伺えます。

ひと皿ひと皿においしさを

ひと皿ひと皿においしさを

 「仕事をしているという感覚がないほど料理が好きで楽しい」と杉本さん。食材一つひとつをじっくりと見極め、特徴を生かし提供する料理には、時間と手間暇を惜しまないおいしさへの探求心が伺えます。

湖香六根の料理
湖香六根の料理

 先日は110kgのイノシシが捕れたとの連絡を聞き、猟師のもとに駆け付けました。現物を確かめるとすぐに仕入れを決めました。野生の鳥獣ジビエには良い印象を持たない人もいますが、山椒をピリッと利かせたり、相性の良いお味噌の幽庵焼きにしてみたり、おいしく食べていただこうと杉本さんの腕が鳴ります。お客様に、今まで食べたことのない食材や、苦手な食材を「一度、うちの料理で挑戦してみませんか?」とお誘いするというのも、追求し尽くしてきた自信から。

命をいただくということ

命への想い

 なぜ市場に出回らない食材を選ぶのでしょうか?杉本さんには2つの命への想いがあります。一つは、出回らなかった食材の命をも無駄にしたくない想い。「食べることはその命をいただくこと。できる限り食材を100%使いきりたい」捨ててしまうところがほとんどないようにスープをとったり、団子にしたりと調理されています。野菜の皮など調理できないものは、ぬか床に混ぜて使用するという究極のフードロス削減。「骨からは出汁が出ます。焼いて取った出汁を、身に戻して調理するというひと手間をかけると、食材が本来もつおいしさに、さらに味をプラスできるのです」杉本さんの手にかかれば、予定調和にないおいしさがそこに生まれます。

生きることは食べること

杉本料理長
杉本料理長

 そしてもうひとつは私たちの命。私たちがおいしくいただくことは、食材に対するこの上ない感謝の表れだと杉本さん。新鮮な地のものは、もっともおいしく栄養価も高く、私たちの命、生きる力につながります。

 これからは、子どもたちに食を通じて自立して生きていく力を身につけてほしいとして、地元の農家さん、漁師さんも巻き込んで、ゲストハウスや子ども農園といった場をつくることが夢だそう。

 「生きることは食べること」。つい食事を簡単にすませがちな現代人の私たちは、何を求めて活動しているのでしょうか。心と体を喜ばせる食事は、命をいただいて生きることの根源的な幸せを、五感を超えておしえてくれているようです。

湖香六根(うかろっこん)

〒529-1441
滋賀県東近江市五個荘川並町713

TEL:0748-43-0642

http://uka-rokkon.com/