#06
#06

宿場町のにぎわい、100年先へ

第6回
「商店街ホテル 講」


旅の楽しみは今も昔も。
江戸幕府によって整備された五街道の一つである東海道には、浮世絵や文学に描かれるほど旅路のおもしろみがありました。宿場町は活気にあふれましたが、その後の近代化や西洋文化に押され、少しずつその姿は影を落としていきます。滋賀県大津市もその一つ。今、風情残る古き良き町にふたたび魅了され、旅行者に体験してもらうことでもう一度にぎわいを取り戻そうとする人たちがいます。

活気にあふれた大津百町(おおつひゃくちょう)

東海道五拾三次之内 大津
東海道五拾三次之内 大津

 東海道五十三次の最後の拠点である大津宿は、日本でも最大の宿場町として栄えました。物資の港町としての機能も合わせ持つことや、天台宗門宗総本山である三井寺(長等山園城寺)の門前町であることからも、大いににぎわったと言われています。その様子は町の数に表れ、江戸中期には100を超えたと言われることから「大津百町」と呼ばれました。往路道中の思い出にふけりながら疲れを癒し、いよいよ迫る京都を目前に胸を躍らせる人々、そして迎え入れる町の人々の活き活きとした情景が目に浮かびます。

 しかし、その後の道路や新幹線の発達によって機能を失った宿場町は、次第に姿を変えていきました。大津百町は縮小され、現代の都市構造へと塗り替えられていきます。

今なお物語る歴史をたずねて

大津商店街
大津商店街

 経済発展ののちに訪れた人口減少時代。日本の国内出生数は、2019年で86万4千人となり、1899年(明治39年)の統計開始以来、初めて90万人を下回ることが厚生労働省の推計で分かりました。人口減少が地方にもたらしたのは、都市への人口集中による生活機能の衰退です。JR大津駅から琵琶湖を目指し、大津百町と呼ばれた地域を歩いてみると、商店街は大規模小売店にその役目を取って代わられ、家屋は高齢化と後継者不在により空き家となり、界隈はおだやかに静まりを見せています。

 その一方で目を引くのが、今もなお残る歴史的建築物。戦火を免れ自然災害の被害も少なかった大津には、貴重な文化財が数多く趣深い姿を残しています。かつては活気にあふれたこの町をよみがえらせたいと、空き家となっている町家を活かし宿泊施設として再生したのが、2018年に開業した「商店街ホテル講(こう) 大津百町」です。

かつての宿場町を再現

商店街ホテル 講 大津百町
商店街ホテル 講 大津百町

 経年によって劣化が進み、本来なら取り壊されるはずの町家が宿として息を吹き返しました。柱や天井、建具などのたたずまいをそのままに、和だけでなく洋風のインテリアをも取り入れ、リノベーションされたホテルは7棟。うち5棟は一棟まるごと貸し切りで、他の宿泊者に気兼ねすることなく町家暮らしを体験できます。構造から見直しリノベーションされた町家は築100年以上。木を中心にした心やすらぐ日本家屋に、快適性にこだわった建築設計や家具、寝具は過ごしやすく好評です。

宿場町を再現

 提供する食事はあえて朝食のみ。それもそのはず。周辺の商店街を散策すれば、古くから京都に卸す湖魚店や惣菜店、350年以上続く仕込み蔵をもつ造り酒屋、皇室御用達のお漬物店といった老舗が建ち並ぶのですから、こんな楽しみはありません。大津百町の歴史とにぎわいを体験できることがこのプロジェクト最大のウリなのです。

 コンセプトは「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」この土地に住まうような居心地のよさは、かつての宿場町を見事に再現しました。当時の旅人も同じように感じていたのだろうかと不思議な感覚になります。

 マネージャーの佐藤毅純さんは話します。「町家を一軒でも残せたら、地域にとっては宝になります。これからの世代の人にもすばらしさを感じてもらい、守っていってほしい。それが運営のきっかけです」100年以上前の大津百町を未来へ。100年先を見越したというリノベーションにもその意志が表れているほどです。

支え合いながらよみがえる町

宿場町に泊まる

 ホテル名の由来となった「講」とは、庶民のための相互扶助組織をいいます。江戸時代、庶民による旅行は伊勢詣でのみが許されていました。一生に一度は訪れたい伊勢。そこで村人が旅費を共同出資し、代表者はお伊勢参りをして土産話を還元するという仕組みがあったのです。日本人に古くから根付く、お互いに助け合う精神の表れ。同ホテルは、宿泊することで1泊一人あたり150円を大津市商店街連盟に寄付するという「ステイファンディング(Stay Funding)」により、地域ぐるみで街を元気にする地方再生モデルとなることを目指しています。

 まち歩き、人とのふれあい、歴史との対話、地場の味、新しい発見、100年以上前にも旅の思い出をお土産や記録として伝えたように、現代ではSNSでシェアすることも、変わらぬ楽しみのひとつ。旅によって栄えた宿場町がふたたびにぎわうキーワードは、“旅”にあるのかもしれません。

商店街ホテル 講(こう)
大津百町

ホームページ
http://hotel-koo.com/

滋賀県大津市中央1-2-6

TEL:077-516-7475