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太古の自然のつながりを
未来につなぐ人々

第1回
「奥びわ湖・山門水源の森」


山と緑に囲まれた琵琶湖。湖は、周りの環境の変化を色濃く反映します。森を守ることは、水を守ることです。水を守ることは、生命を守ることです。山門水源の森から湧き出た清涼な水は、山の斜面をゆっくりと流れて、琵琶湖の北岸に注ぎます。水は雨となり雪となって、また森へ帰ってゆきます。そんな太古の自然のつながりを未来につなぐ人々がいます。

誰も知らない神秘の湖

琵琶湖
琵琶湖

 悠々と水をたたえる日本最大の湖、琵琶湖。滋賀県のおよそ6分の1を占めるその面積は約670平方キロメートル、周囲約235キロメートル、最深約104メートル。大きさは世界の湖にかないませんが、地球上に20ほどしかない古代湖の一つで、世界で3番目に古いといわれています。誕生は約400万年前。場所は今よりずっと南、三重県伊賀市の辺りにありました。後の地殻変動などでゆっくりと北へ移動し、消えては現れ、現れては消え、約40万年前に現在の琵琶湖がほぼ形づくられたと考えられています。まだ、日本に誰もいない頃の出来事です。

太古の水源は生命の源

山門水源
山門水源

 そんな神秘の湖の北。滋賀県北部と福井県南部にまたがる野坂山地。降り注いだ雨や雪が大地に浸透し、また静かに湧き出して少しずつ広がり、やがて広大な湿原になりました。山門湿原です。

 湿原とは、簡単にいえば、湿地に成立した草原のこと。また湿地とは、淡水や海水によって冠水、あるいは覆われた土地です。環境省は日本の重要湿地として、湿原をはじめ湖沼や池、河川、気水域、干潟、砂浜、浅海域、サンゴ礁、マングローブ湿地、水田、水路、湧水など22のタイプに分類しています。これらの自然環境は湿地特有の動植物を生み、育み、生物多様性を示す極めて貴重な生態系を構成しています。山門湿原もまた大自然の宝庫であり、環境省が選定した重要湿地の一つです。

 山門湿原の面積は約5.6ヘクタール。3万4000畳という広さです。ミズゴケが堆積した泥炭層から成る高層湿原であり、その深さは7mに達するといいます。堆積物の中には約2万6千年前に九州から飛んできた火山灰が含まれています。さらに深い地層からは約3万8千年前の木片も見つかっています。ゆえに、この湿原は約4万年前に生まれたと考えられています。4万年前といえば旧石器時代。人類が日本列島に渡ってきた頃のお話です。

氷河時代の花が咲く森

 その希少な湿原を守るようにして広がる63.5ヘクタールの森林が「山門水源の森」です。

 滋賀県は、日本列島のほぼ中央部に位置し、1000メートル級の山々を背に、日本最大の湖を抱く巨大な盆地であり、北は若狭湾を経て日本海に、南は伊勢湾を経て太平洋に、南西は大阪湾を経て瀬戸内海に通じ、それぞれの湾から入る気流の通り道になっています。

 このような変化に富んだ地域の最北端にある山門水源の森は、北の森と南の森の結節点。冬は北陸型の気候となって寒気が流れ込み、夏は海洋から湿潤な大気が入り込むことから、ここでは寒地性と暖地性の植物が多様な群落を形成しています。寒さを好むブナと暖かさを好むアカガシが、仲良く手をつなぐように枝葉を交わして並んでいるのです。この豊かな植生は、多くの昆虫や動物たちのすみかともなっています。