#38
#38

変わらないことの安心感を煮豆にのせて

第38回
4世代に愛される煮豆「青木煮豆店」


今も昔も、日常の食卓に並ぶ煮豆。豆は縄文時代から日本に渡来してきたと言われ、「マメに暮らす」との想いを込められおせち料理にも並ぶほど、小さな子どもからお年寄りまで長く親しまれてきました。2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」の中でも大きな存在を占め、ほっこりした食感と素朴な味わいが自然と日本人の食生活に馴染んでいます。

日本人の食卓に

日本型食生活の代表
日本型食生活の代表

 世界一の平均寿命を支えているともいわれる「日本型食生活」の中でも、高たんぱく質でビタミンやミネラル、食物繊維が豊富な豆はその代表格。栄養価は世界的にも注目されています。

 今では加工食品として、スーパーなどで手軽に手に入りますが、日本では明治時代から、町を売り歩く煮豆売りが存在していたのだそうです。滋賀県大津市に店を構える青木煮豆店は、創業から90年、初代から続く作り方をそのままに届け続けています。親子4代にわたって利用されるお客様もおられるというほど、地元にはなくてはならない存在です。2代目店主の青木洋さんは語ります。「僕が食べている以上に、50年以上食べてくれている人もおられるので、中途半端に新しいことをするよりも、今のことをきっちりしておきたい」

おじいちゃんの味をそのままに

おじいちゃんの味をそのままに
おじいちゃんの味をそのままに

 創業は昭和7年。祖父である青木吉夫さんが始めた煮豆と昆布巻は、当時、大八車を引いて大津市内を行商していました。現在の県庁周辺や膳所、近江神宮や長等のあたりで、チリンチリンと音がすれば、煮豆やさんが来た合図。ご近所から買い求めに出てきてくれます。「ここのは良いよ」と伝え聞いた人も来られるので、特別な売り込みはしていないそう。今は車になりましたが、回る地域や行商するスタイルは同じです。若い世代からは珍しく見られるようですが、実はおじいさんの代からずっと変わらずに続けているだけなのです。

煮豆と金時
煮豆と金時

 一番人気は、金時豆。クヌギの割り木でじっくり炊き上げます。大豆はエビと炊いたエビ豆や、昆布豆に。ソラマメは鉄分をたっぷり含ませ、真っ黒に炊き上げる独特の作り方。

 白花豆やエンドウ豆など、すべて昔ながらの味を守り続けています。

 「レシピもないんですよね。お塩の加減も感覚やし」変わらない味を届けることは、変わらず求めてくれるお客様への誠意のようにも思えます。「薪で炊いているというのも、僕からしたら普通のことなので」見映えのかっこ良さでも研究を重ねた結果でもない、ただ、“青木の煮豆”を提供し続けるため。豆を入れる棚、前掛け、小銭入れなど、行商で使う道具も今なお使い続けているのは、先代の想いまで受け継ごうという気持ちの表れなのかもしれません。

 洋さんが煮豆店を継いだのは、約20年前のことです。料理学校に通い、就職活動をしているなかで、ふと「うちが良いな」と感じたそうです。おじいさんからは「こういう商売は若い子がするものじゃない。煮炊きは年寄りの仕事だ。忍耐と努力や」と言われたそう。

意を決して飛び込んだ世界、5年ほどともに行商に回れた経験が今につながっています。

変えない中での「深化」

煮豆
煮豆

 かつて行商に行列ができていた頃から、おじいさんのことを知る人は少なくなっていきました。スタイルを守り続けながら洋さんがはじめたことは、煮豆をアレンジしたスイーツです。豆であんこをこしらえ、どら焼きを販売したところ、思いのほか人気でした。また夏に好評の「まめのせかき氷」は、4種類の煮豆に、自家製の黒糖シロップをかけていただきます。「煮豆を口にしてもらう機会が増えるということは、おじいちゃんの頃からの味を伝えられているということ」豆のおいしさを、いろんな人に味わってもらいたいと、オンラインショップでの展開もはじめました。移り変わる時代を捉えながら伝統を深化させ、伝え続けます。

変わらない日常を届ける

店主の青木洋さん
店主の青木洋さん

 洋さんは、これまで天候や体調を理由に休んだことは5回もないといいます。お客様が少なくても休むという選択肢はなく、これからも行商は続けていくといいます。コロナの非日常の中、いつもの車で伺うと「お兄ちゃんが来てくれると安心する」と言葉をかけてくれた方がおられたそうです。同じ曜日、同じ場所、いつもの前掛け、豆の並ぶ光景に、無事に日常を送れていることを感じられるのかもしれません。こんなときの他愛もない会話や笑顔のコミュニケーションも、行商の醍醐味であることに気づかされます。

 青木の煮豆はどんなお味なのか?常連のお客様に聞けば、「普通」と答えるといいます。

 飽きることなく毎日に馴染む、いつものお豆さん。食文化が多様化し、何でも手軽に手に入る現代に、変わらず「良いもの」を変わらず届け続ける。手から手に渡っているのは煮豆だけでなく、ほっこりした人のあたたかみのようです。

青木煮豆店

滋賀県大津市木戸105-7

電話:077-592-0270

営業時間:9:00~18:00(土日定休)

ホームページ:https://www.aokinimame.com/