#35
#35

地域に誇る伝統を、遊びごころで伝えていく

第35回
歴史風土からのおくりもの「ののすておりがみ」


子どもだけでなく、もしかすると大人の感性もくすぐるかもしれない、絵柄模様が描かれたモノトーンのおりがみ。どんな作品になるかは出来上がってのお楽しみ、モダンなテイストにも仕上がり、色で楽しむおりがみとは一味ちがった趣きを生みます。シンプルながら、心がカラフルに色づき始めます。

おりがみに形を変えた伝統文化

おりがみに形を変えた伝統文化

 どこか魅かれる作品を楽しむことができるのは、滋賀県愛知郡愛荘町愛知川の「ののすておりがみ屋」。リノベーションされたあたたかみあふれる古民家をのぞくと、たくさんの柄模様のおりがみに出合います。実はこのデザイン、織物の型紙を利用したもの。この愛荘町の麻織物産業を支えた商店のひとつ、野々捨商店が残した6000枚もの型紙の図柄なのです。2002年に惜しまれつつも廃業した野々捨商店、紡ぎ続けてきたその伝統を残したいと、美しい柄模様をおりがみに再現したのが「ののすておりがみ屋」なのです。

 手にとると、よく知る紙とは風合いが異なります。琵琶湖の水質保全に役立ち、生物の生息地として利用されているヨシ(葦)を原料に作られたヨシ紙です。図柄も原料の紙もこの地で育ったものばかり。おりがみに込められて人の手へ。歴史風土からのおくりもののようです。

地元の誇り「近江上布」

近江上布の美しい柄

 室町時代から麻織物産業が発展したのは、山々に囲まれた愛知川や宇曽川流域の、湖東地域独特の自然環境がありました。麻に適した鈴鹿山系の清水が湧水となって豊富に供給され、湿潤な気候とあいまって上質な麻布を生んだのです。全国でも数少ない環境に恵まれた近江の麻織物は、地元人たちの高い技術が「高宮布」として品質が認められ、江戸時代には将軍家への献上品ともなったほどです。やがて日本でも有数の上布となった「近江上布」は上品さと柔らかな風合いを持ち、昭和52年には絣、生平が近江上布として国の伝統的工芸品に指定されました。

 近江上布の美しい柄は、先染めされた麻糸を、型紙にそって織り上げられることで描き出される、人の手業。地の恵みをいただきながら現代にまで受け継がれてきた誇り高き伝統文化です。型紙から発想を得たののすておりがみは、この地でしか生まれることのなかった、想いの伝承なのです。

遊びゴコロが見出すおもしろさ

触って遊べる伝統文化に

 「地域が生んだ模様を、触って遊べるようにできたらおもしろいな」型紙のデザインを見て、「ののすておりがみ屋」を立ち上げたのは、りんりん創作事ム所 代表旗振役の関りんさんと川井健司さん。本来、着物の柄になるには、単一模様の型紙をいくつも重ねながら組み合わせていきますが、一つひとつの模様に個性やおもしろさがありました。あえて模様を引き立たせるために、白と黒のモノトーンにおりがみにしたそうです。

 「色おりがみだったら考えないようなことも、模様を考えておりがみを楽しんでくださっているのでおもしろい」と川井さん。第2・第4金曜日には、おりがみ教室「おりがみのじかん」を開催しています。模様が入ることによって作品に新たな広がりが生まれ、自分だけの作品が出来上がります。

 おりがみの他にも、現在では扇子やヘアゴム、レターセットなどを展開しています。

好奇心の先に

ポイトコセの刺繍

 商品づくりは遊びの延長という二人が次に手掛けたのは、刺繍づくり。「おりがみはモノトーンですけど、今度は僕たちの色をつけていこうと、カラフルに刺繍を展開しています」と川井さんが話すのは、オリジナルデザインのキャラクターや動物たちがワンポイント刺繍に表現された雑貨たち。思わずくすっと笑える作風が心を和ませてくれます。刺繍屋の屋号となっている「ポイトコセ」とは、ピョンと跳び越えろという滋賀の言葉。「新しい自分を出していかないと飛び越えられない」と関さん。このような方言も、地域ならではの合言葉。そして知らない人に「何だろう?」と好奇心をさそいます。言葉に隠された想いが商品とあいまって、人と人をぐっと近づけてくれます。

大人の感性が主役の遊び場

「野々捨商店」から「ののすておりがみ屋」へ

 関さんは小学生のころ、よく図工室に遊びに行っていたそう。先生の話を座って聞くだけでなく、みずから手を動かせることが楽しかったといいます。「ここをね、遊び場にしていきたいんです。子どもが遊びを通して知るように、『遊びを通して知る力』は大人にもまだあると思うので。自分が主役になれる遊び場です」おもしろいこと、時間を忘れるほど熱中することに出合いや学びが隠れている。さらに背景や歴史を知ることによってなお理解は深まり浸透していきます。遊びを通じて文化を知り、伝統は受け継がれ、人は可能性を広げていける。ののすておりがみはそんなことを教えてくれているようです。

ポイトコセ
ののすておりがみ屋 刺繍屋ポイトコセ

滋賀県愛荘町愛知川1764-1

TEL:0749-29-1948

営業時間:金土日月 11:00~18:00

ホームページ:https://nonosute-origami.tumblr.com/