#46
#46

地域に届け!
天使の歌声に込めたメッセージ

第46回
地域を育て、街を作る「長浜小学校合唱団」


150年の歴史を持つ滋賀県最初の小学校、長浜小学校の音楽室。心洗われるような子どもたちの歌声が、今日も聞こえてきます。学校や保護者、地域の人々に支えられ、一人ひとりがイキイキと歌う長浜小学校合唱団です。

子どもたちの熱望からはじまった合唱団

長浜小学校合唱団
長浜小学校合唱団

 長浜小学校合唱団が結成されたのは、10年前。きっかけは学校のPTA事業として、二宮金次郎像を再建する際に催された、ミュージカル仕立ての「二宮金次郎劇」です。全校生徒を中心に、先生や保護者、地域のお年寄りも関わって、地域のイベントとしても大盛況のうちに幕を閉じました。とくに興奮冷めやらなかったのは子どもたち。合唱隊の子どもたちが「もっと歌いたい!」「楽しかった!もっとやりたい!」と声を上げ、合唱団を立ち上げることになりました。

 指導しているのは、元音楽教師であり生徒の保護者でもあった北村美佳さん、劇中の合唱隊を支えていました。「みんなキラキラしていて、こんな子どもたちとぜひ一緒に取り組みたい」北村さん自身も、子どもたちの力強さと活気に惹きつけられたのだと言います。

 子どもたちの熱狂的な願いから4人で発足した合唱団は、今や40人の大所帯となりました。

まさかの快挙!みんなでステージをつくる喜び

NHK全国学校音楽コンクール
NHK全国学校音楽コンクール

 最初から歌の技術があったわけではないけれど、とにかく歌いたい意欲でいっぱいだった子どもたち。無我夢中だったといいます。設立2年目には、「NHK全国学校音楽コンクール」に出場してみることにしました。初めての滋賀県コンクール、なんと結果は金賞受賞!「コンクールがどういったものかもわからずに、ただ楽しんで取り組んできたその勢いが、賞に結びついたのではないかな」と北村さんは振り返ります。

 毎年行われている定期演奏会は、金賞受賞校だけに気合いが入ります。120%の実力を発揮するほどの気概で臨んでいるそう。中でも、歌だけでなくセリフやパフォーマンスといった表現の要素が加わるミュージカルは、大人さながらの堂々たる迫力です。子どもたちにとって、みんなで作り上げる喜びはもちろん、登場人物の気持ちの変化をおもんばかることによって、人への思いやりや感情表現を学ぶことができる機会でもあるようです。

子どもたちを地域で育て、街を作る

手作りのステージ
手作りのステージ

 大道具や衣装、ステージはすべて手作り。家族総出で舞台を創り上げ、公演を楽しみにしているのは地域の子どもたちだけでなく、大人やお年寄りも。普段ミュージカルを観覧
する機会のない方々にとっても、毎年のお楽しみのようです。

 現在の団員は全員が女の子。「曳山祭の女バージョンだね、と言われることがあります」と北村さん。400年続く伝統行事である長浜曳山祭は、羽柴(豊臣)秀吉によって始まった地元のお祭り。目玉である子ども歌舞伎の舞台を、地域の男の子が演じます。そんな中で長浜小学校合唱団は、曳山祭に匹敵する、女の子のための晴れ舞台というわけです。力いっぱい楽しみながら育つ子どもたちを応援する姿勢に、地域の、みんなで子どもたちを育て、街を作っていく意識が伺えます。

ハーモニーが強める信頼、見えない絆

合唱団が大きな家族
合唱団が大きな家族

 個性を尊重するこの合唱団は、歌い方、表情などの表現をあえて統一することなく、歌を通じて一人ひとりの人間的成長を大切にしています。

 歌声のバトンは次の子どもたちへ。卒業していく生徒から受け継がれるのは、声を合わせることによって強まる絆。コンクール前や定期演奏会には卒業生も激励に訪れます。「定期演奏会は、みんなが集まる同窓会になっています」と北村さん。中にはNHKの劇団に入団した子や、大学で演劇の道に進む子も。この合唱団を通じて大きな家族ができているよ
うな感覚だそうです。

私たちが地域にできるせいいっぱいのこと

子供たち

 2018年のコンクールには3度目の金賞受賞、2019年には銀賞受賞を果たすも、2020年は感染症による影響により大会は中止、活躍の機会を失いました。緊急事態が明け、4か月ぶりの練習では、子どもたちの表情や態度に以前の活気を感じられなかったという北村さん。歌とメッセージの動画を制作することを子どもたちに打診しました。

 「歌で元気になってもらおう」―支えられ、励まされてきた自分たちが、今不安の中にいる地域の人たちにできる恩返し。子どもたちの目の色が輝いたといいます。
動画に収められたのは、「コロナウイルスなんかに負けたくない」「互いに助け合って支え合って幸せに生きていける世界を作りたい」子どもたち自身の、心の底からのメッセージと歌声です。

 完成披露上映会の直前まで、こんな時に歌っていて良いのか…戸惑いや葛藤も見られたそうですが、地域の人たちからの「再出発できるような気持ちになった」「元気になった」との声に、また頑張るきっかけになったようだと北村さんは言います。

「今こそみんなが歌うことに意義があるのかもしれない」

 子どもたちはこれまでも活動を通じて、恥ずかしがる仲間を励ましたり、悔しさを共有したり、助け合いながら成長し、目に見えない心のつながりを育んできました。その経験が今、地域に生きる時。子どもたちに寄り添ってきた北村さんは言います。「子どもたちの飾りっ気のないストレートな気持ちが歌に現れて、人の心に直接届きます。子どもたちの歌声は天使だと感じています」またひとつ、地域との強いつながりをもたらしたのではないでしょうか。