#10
#10

古来の素朴な豊作祈願、
粥占い。

第10回
「田中の粥占い」


今年も良い年でありますように。
3本の竹筒には人びとの願いが詰まっています。

米どころ滋賀

滋賀県の風景

 市域のおよそ6分の1を湖が占める県は、他府県の人から見れば農業のイメージなど希薄なのかもしれません。ところが、四方を鈴鹿や比良などの山々に囲まれ、豊かな土壌と温和な気候に恵まれた滋賀県は、古くから水田が開墾されてきました。水田、つまり田んぼです。もちろん現在も近江米の産地として水田農業が盛んで、農林水産省のデータによると、農地全体の92%が水田です(平成30年)。これは全国で2番目に高い率だそう。そして、農業産出額の56%が米です(平成29年)。湖国は、全国でも指折りの米どころといえるでしょう。

農業のまち竜王町

竜王町
竜王町

 滋賀県の東南部、湖東平野に位置する竜王町というまちがあります。雪野山と鏡山という二つの山に抱かれて美しい田園風景が広がるこのまちは、総面積の30%が水田で、良質な近江米を作っています。また、近江牛をはじめとする畜産、野菜、果樹、花きの生産なども行われ、古き良き農村の風景を今に残しています。

 その一方、名神高速道路の竜王インターチェンジがあるため京阪神や中京圏からのアクセスも良く、“新しい農空間の創造”をテーマとした体験交流型の農業公園「アグリパーク竜王」といった施設もあり、魅力ある田園都市として多くの観光客が訪れます。

豊作豊漁を祈願する年占(としうら)

田中の粥占い
田中の粥占い

 農作物が豊作か凶作かは消費者にとっても大きな問題ですが、当の生産者にとっては、まさに死活問題です。果たして実りある年になるのかどうか。日本各地では古くから年占(としうら)が行われてきました。年占とは、農業や漁業におけるその年の豊凶、それに大きく関わる天候などを占う行事のこと。正月や小正月のほか、節分、盆、七夕、十五夜などの機会に行われることが多く、方法は地域によって千差万別ですが、競争によって占うものと印によって占うものとの二つに大別されます。

 前者は、たとえば綱引き、棒倒し、相撲、競馬、競舟、歩きながら弓を射る歩射(ぶしゃ)など、さまざまです。運動会で盛り上がるあの綱引きも元々は年占の行事であり、村対抗や農村対漁村などで競われ、勝ったほうがその年の恵みに授かるというものでした。今は国技として広く親しまれている相撲もまた、弥生時代の農民の間で五穀豊穰か否かを占う農耕儀礼として催されていました。

 後者も多種多様ですが、代表的なものとしては豆占(まめうら)や粥占(かゆうら)があります。豆占は、大豆や小豆などを12粒並べて焼き、きれいに焼ければ晴れ、黒く焦げれば雨、半分焦げれば曇というように、その焼け具合で12カ月の天候を占います。粥占は、粥を炊く際に竹筒などを入れて炊き、筒に入った飯粒の量で占うというもの。飯粒の量が多ければその年は豊作、少なければその年は凶作です。これらの方法も地域によって少しずつ違うようですが、豊作・豊漁を願う人々の心は変わりません。全国の村々で行われていた年占も、今はほとんど見られなくなりました。

平安時代から伝わる「田中の粥占い」

乙名と7人の長老
乙名と7人の長老

 各地の粥占が時代とともに消えてゆく中、滋賀県は竜王町の田中という集落に今も残るのが「田中の粥占い」です。平安時代から千年も続くとされる伝統行事であり、毎年1月14日に八幡神社で開催されます。

 八幡神社の境内にある毘沙門堂の前、粥占いを執り行うのは、乙名(おとな)と呼ばれる7人の長老です。家々を回って集めた7升ほどの米を直径1m余りの大釡で炊き、粥の状態のときに3本の竹筒を入れます。竹筒は直径約3cm、長さ約20cmで、それぞれ異なる符号が付けられています。1本線は早生(わせ)、2本線は中生(なかて)、3本線は晩生(おくて)といい、作物の収穫期を表すもの。そして、炊き上がった熱々の飯から竹筒を取り出して毘沙門天に、釡の飯は2つのおひつに移して神社に供えます。おひつに入れた飯を競って取り合うなどの神事が行われた後、いよいよ占いです。早生、中生、晩生の順に3本の竹筒を短刀で割って、飯粒の詰まり具合を披露します。農家の人々は、この結果を一つの目安として稲の品種を決めることもあるのだそうです。

 占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦。結果が重要なのではなく、この伝統行事を通じて皆が心を一つにすることが大切なのでしょう。今では希少な年占の一つであり、乙名の役も持ち回りのため、若い世代にも伝えていきたいと長老たちは考えています。粥占いは、田中の未来を占う行事でもあるようです。

令和2年は豊年

 令和2年の田中の粥占いは、3本の竹筒に飯粒がたっぷりと詰まっていました。どうやら豊作の年になりそうです。

 毘沙門天に供えた飯は翌日、小豆粥にして集落の人々に振る舞われました。今年も良い年になりますように、との願いを込めて。

田中の粥占い

  • と き 毎年1月14日
  • ところ 八幡神社 滋賀県蒲生郡竜王町田中264